続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ガスリット」

Trailer & Key Art To Starz Series 'Gaslit' Starring Julia Roberts & Sean  Penn — BlackFilmandTV.com

2022年アメリカ/原題:GASLIT/監督:マット・ロス/全8エピソード 各話約55分/2022年4月24日〜STARZにて配信

 

ウォーターゲート事件は、これまで繰り返し映像作品に取り上げられてきた題材だし、毎日半強制的に日本の政治の腐敗を見せられているので、これ以上政治屋の陰謀なんてわざわざ見ることあるかしら、と尻込みしていたのだけど、特殊メーキャップアーティストの辻一弘さんの最新の映像の仕事が、この作品のショーン・ペンだったこともあって、でも見始めたら、夢中で一気見してしまった。

 

「キャプテン・ファンタスティック」の監督で俳優でもあるマット・ロスが全話を監督している。なるほど、どうりで音楽が効いているわけだ。

撮影も脚本も音楽も、70年代の時代感覚をスタイリッシュに再現していて、めっちゃクオリティ高い。デヴィッド・フィンチャーの「マインドハンター」を彷彿とさせる粋さがある。

 

この作品が複雑な厚みを持つのは、政治ドラマでありながらけしてイデオロギーで物事を安直に語らないからだと思う。

物語の中心にはマーサとミッチェルという独特な夫婦の愛憎関係があり、登場人物それぞれの人生をかけたサバイバルのドラマがある。

それぞれに違った背景や事情を持つ独立した個人の感情が生き生きとうごめいている。

単純に政治的立場や正義とか悪とかで人を仕分けして描くことをしない。

 

この作品に登場するすべての人物は、全員が切実な自分のための動機でもって行動していて、それぞれに人間をよく描いていて納得性がある。

欲望、トラウマ、狂信、コンプレックス、虚栄、孤独、純粋さ、自己証明。

結局、人間を動かす強い動機になりえるものは、そうした自分なりの切迫性や納得性だけなんだなと感じる。

だからウォーターゲートのような巨大な陰謀であっても、色んな「個人の感情」という不確定要素が織り成した複雑な文様みたいな様相を呈していて、どんなに目を凝らしても、単純明快な真実も、「犯人」も、善も悪も見えてはこない。

こういうことは、結局根本的な解決はなく、暫定的な表面上の落とし前がなされるだけだ。

 

この作品は「政治疑獄」というものの本質にかなり迫った作品だと思う。

人の命なんて何とも思わないくらいの冷酷さやおぞましい軽薄さと、権力の中枢でピラミッドの最上層にいる一番優秀なはずの人々のずっこけるほどの間抜けさに震える。

この作品の人間たちのありさまに、時代や背景を超えた普遍性を感じた。

 

ショーン・ペンは完璧な特殊メイクも含めて、最高に嫌らしい食えないおやじだったし、ジュリア・ロバーツは、本当に素晴らしかった。

どんなに落ちぶれてぼろぼろになっても、独特のあけっぴろげな輝きは失われない。そんな佇まいは、彼女だけの持ち味だと感じた。難しい人だという話は多いけど、唯一無二の魅力だなあ。

そして、なんと言っても狂信的なゴードン・リディの圧倒的なやばさが強烈な印象を残した。独房のシーンは正視できないほど鬼気迫るものだった。

そして最終話のクライマックス、ゴードンとディーンのやり取りは、こんなハラハラするシーンはなかなかないってくらいの異常な緊張感と迫力があった。

リディを演じたシェイ・ウィガムは、個人的にはエミー賞ものだと思うけれど、彼はなんと「モダンラブ」でロマンスグレーの大学教授を演じていた人だった。すっごい化け方、信じられない!