続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ウィンター・オン・ファイア :ウクライナ 自由への闘い」

Winter on Fire: Ukraine's Fight for Freedom (2015) - IMDb

2015年ウクライナアメリカ、イギリス/原題:Winter on Fire/監督:エフゲニー・アフィネフスキー/105分

 

2014年のウクライナキエフで起こったマイダン革命を克明に記録したドキュメンタリー。すごい作品だった。今、必見の作品だと思う。

 

ウクライナは古来から東西の境界となる地域だった。1991年にソ連から独立。

2004年、親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチが大統領に勝利したが、国民は不正選挙に抗議し、平和的な抵抗デモ活動、オレンジ革命を行った。

再投票が行われ、勝敗は逆転。その後ウクライナは経済安定の道を模索する。

2010年、ヤヌコーヴィチは再び大統領に返り咲く。もちろん背後にロシア・プーチンの後ろ盾があったことは想像にかたくない。

彼はEU加盟を国民への公約としながら、実際はロシアとの関係を強化。ヤヌコーヴィチは、プーチンの犬として権力を与えられた人間だったから。

 

2013年11月、政府はEU加盟へのプロセスを停止すると発表。

それは実質的にロシアの傀儡政権になると宣言するも同然のことだった。これを機に人々は立ち上がることになる。はじめにFacebookでの呼びかけがあった。広場に集まって声をあげよう。数千人が独立広場に集まった。

平和的な抗議活動だった。彼らの願いはひとつ。未来の世代のために政府に約束を果たしてもらい、民主化を叶えたい。

ところが。草の根段階で市民の声を潰そうとした政府は、警察とベルクトという内務省管轄の特殊部隊を派遣し、彼らはいきなり丸腰の市民を女子供構わず棍棒で殴りまくった。生々しい映像が動かぬ証拠になっている。

政府は公的機関を使って、公然となんの躊躇もなく暴力で、平和的にデモをする市民を抑圧した。

 

この愚かな行動が、ウクライナの人々の心に火をつけることになった。

同年の12月には、100万人規模のデモが起こる。普段政治に関心のない人たちも参加した。

しかし、人々がどれだけ平和的にデモ活動を行おうと、政府は一切聞く耳を持たず、一方的に圧倒的な兵力で市民を激しい暴力で押さえ込もうとする。

人々は広場を占拠して、世界中にウクライナで起こっていることを知らせ、決して服従しない意思を示すことに決めた。

それから90日以上、キエフに日常が戻ることはなかった。

 

しかし、ウクライナの市民は立派だった。カメラは広場の市民の姿を詳細に伝える。

そこには一種の災害ユートピアのようなものが立ち上がった。この場合、災害というか、政府による犯罪であり人災だけれど。

皆が協力しあい、特技を持ったものが技術をシェアし、退役軍人が正しく安全で違法性のない戦い方をレクチャーし、同時にコミュニティーを守り、人々の間にヒエラルキーはなく、12歳の少年もいっぱしの大人のように認められて誇らしげに働き、若者はよく組織化されて効率的に協働作業が行われた。異なる宗教を持つ人々が尊重しあい、宗教者は人々の心を癒して回った。誰も暴徒化せず、酒を飲む人一人いなかった。彼らは3時間おきに皆でウクライナの国家を合唱した。

このような、究極的にひどい状況の中で、人間の賢さや美しさを感じられるものが立ち上がるということの皮肉を思う。

 

一方、どこまでいっても政府側は下劣で暴力的だった。

ベルクトは市民に実弾を発砲し、けが人を収容する建物を破壊し、テントを燃やした。

政府は刑務所の犯罪者に金を渡して傭兵化させ、デモ隊を襲わせた。

野党政治家も、具体的な行動はおろか案を出すこともできず、市民は呆れ果てて彼らを無視した。

挙句の果てに、政府は合法的に市民の人権を制限し、逮捕拘束のできる法律を勝手に作って可決した。

まともな人間で政府を支持する者など、もういなくなっていた。

 

2カ月余り。政府側はなりふり構わぬ暴力で市民を弾圧し続け、多くの人死にが出続けた。

けれど、どれだけやられようが誰も逃げ出さなかったし、けして諦めなかった。彼らはものすごい団結と特殊な高揚感の中にあって、死ぬことを恐れないほど肝の据わった状態になっていった。

人間って状況次第でここまで覚悟が決まるものなのだということに見ていて圧倒された。

最後通牒のように明日の10時までに大統領を解任させなければ武力攻撃を始める、と市民が宣言したその晩、ヤヌコーヴィチはヘリコプターでこっそりとロシアに逃げ、プーチンに保護された。

 

こうして多くの犠牲を払って、2014年2月22日、ようやくヤヌコーヴィチ政権が終わった。人々は失われた仲間の棺を囲んで涙を流し、自由を手にした歓喜の声をあげた。

ものすごい濃厚なドキュメントだった。記録映像としての価値もすごい。

 

 

それからほどなくクリミアの一方的な侵攻があり、たったの8年後に首都キエフが再び戦場に。これほどまでの思いで民主化を求めた人々を、プーチンは蹂躙し続けている。あまりに理不尽。

独裁者は、どれだけ暴力に頼り続けるのか。どうして人間は結局野蛮な手段をとるのか。どんだけばかなのか。

しかしこのドキュメンタリーを見る限り、ウクライナの人々はやわじゃない。自由と尊厳を守ることにかけては、相当覚悟が決まった人々である。(実際のところ、ウクライナ人のように本気で権力と闘える気概を持つ人が今の日本に一体どれだけいるだろう?)

プーチンウクライナの人々を侮っている。いや、怖いからこそここまで乱心しているのか。いずれにしても、ウクライナは簡単にロシアの言うなりになんてならない。

こんなプーチンの保身ありきの戦争。ふざけんな。これだけ言論統制しているロシア国民にさえ、猛反発されている。こんなしょうもない独裁者のためにウクライナの人々が痛めつけられ、殺され続けていること、本当に許しがたい。

ウクライナの人々、どうか生き延びて欲しい。侵攻反対。