続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「フェアウェル」「ニューヨーク公共図書館」「私の名はパウリ・マレー」

「フェアウェル」

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2019年アメリカ/原題:The Farewell/監督:ルル・ワン/100分

★★★★★★★☆☆☆(7/10)

監督の実体験をベースに描いた、変わりゆく中国の今を感じさせる家族ドラマ。急速に失われていくものとずっと頑なにそこにあるものの狭間で、家族それぞれが思い悩み、口にできぬ思いを抱きしめている。その屈託がやるせなくもあり、可笑しくもある。

一番シンプルなのは、家族にとっての愛すべき絶対権力者である祖母のナイナイ。押し付けがましいが家族思いで愛情深い、こういう典型的な「中国の母」も、時代とともにいなくなっていくのかなと思うと切ない。

しかし今しばらくは大丈夫。ラストの本物のナイナイの「ハッ!」にほっとして思わず笑った。

 

「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」ポスター画像

2017年アメリカ/原題:Ex Libris: The New York Public Library/監督:フレデリック・ワイズマン/205分

★★★★★★★★☆☆(8/10)

この素晴らしいコモンに対する様々なアプローチ、多様なアイデアや試み、たくさんの人が生き生きと関わるさまに終始わくわくさせられた。

誰もに平等に開かれていて、分け隔てなく親切であろうとし、さまざまなやり方で人々の知的好奇心を刺激し、啓蒙する場所。

幅広い活動が多くの人の手によって行われながらも、志がしっかりと構成員に共有されている。常に資金には頭を悩ませつつも金儲けや効率だけではない、歴史と知的財産を司る場所としての責任と矜持を持って意思決定していく。しかもしっかり時代のニーズもキャッチアップしていく。

インテリジェンスを伴った風通しの良さが本当にすごいと思った。無駄に威張っている人が誰もいなくて、真の多様性がある。こんな場所が近くにあったらと思わずにいられない。

フレデリック・ワイズマンのそこにある全てをじっくりと網羅するような眼差し。奇をてらわず、その場の肝が何であるのかがどのシーンも明確だつた。彼の作品はいつも長尺だが、勝手に話をつままず、大事なエピソードを最初から最後まで全部見せる。それがいい。

最近のドキュメンタリーはいろんなテクニックで格好良さげに見せるものが多いが、ワイズマンはそういう装飾的なことを一切しない。品があって、しかも気取らないユーモアがある。そしてしばしニューヨークを旅したような感覚にひたれる。

3時間超え、少しも退屈しなかった。さすがだなと思う。

 

「私の名はパウリ・マレー」MY NAME IS PAULI MURRAY - The Chelsea Theater

2021年アメリカ/原題:My Name Is Pauli Murray/監督:ジュリー・コーエン、ベッツィー・ウェスト/93分/2021年10月1日〜Amazon Prime配信

★★★★★★★☆☆☆(7/10)

ルース・ベーダー・ギンズバーグのドキュメンタリーを撮った監督の手による。パウリはそもそもRBGを陽の当たる場所に引き上げた人物。

誰よりも優秀で勤勉で、公平な思想を持つパウリは、ジム・クロウ法下のアメリカで黒人女性として生まれたトランスジェンダーだった。二重のマイノリティーとして、先駆者として苦労の多い、しかし一歩ずつ粘り強く歩みを進めるパウリの生き方は魅力的だった。

自分が何を望み欲しているのか、何が大切で何は瑣末なことなのか、とても明確な人だ。こういう知性にいつも憧れる。

最後に聖職者になったのも、自分に正直であることを貫いて、権威にとらわれず軽やかでとてもいいなと思った。

彼女の表情の美しさにとても惹きつけられた。知的なもの静かさと親しみのある優しさが同居した表情。いつかこんな顔になれたらと思う。

ずっとグロリア・スタイネムの顔にも憧れてきた。彼女の顔には悲しみが深く刻み込まれているが、それも込みで美しい。