続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ベン・イズ・バック」

「ベン・イズ・バック」

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2018年アメリカ/原題:Ben Is Back/監督・脚本:ピーター・ヘッジズ/103分

 

ひとつの家族のある一日を通して、アメリカで社会問題になっているオピオイド中毒患者を取り巻く状況、構造的問題を描く。

ベンの抱える問題や、問題の背景を最小限に小出しに徐々にあかしていく脚本は、恐らくこうであろうという見る者のステレオタイプな予想を何度も覆す。ずるずると抜き差しならないところへ入っていくさまがまるで底無し沼のようで怖かった。 ひたむきな母を演じたジュリア・ロバーツはやっぱり魅力的で、この手の役柄は安定のうまさだなと思う。

 

主人公のベンは、他の多くの中毒者同様、少年の時に医師による安易な処方をきっかけに中毒者になった。

アメリカ国内にオピオイド中毒者は約1100万人いると言われる。ヘロイン中毒者が約100万人なので、桁違いの多さだ。オピオイド中毒者の半数以上は若者で、毎日170人がオーバードースで死亡している計算になるという。凄まじい規模の薬害である。

パデュー社のオキシコンチンが大ヒットしたことが先駆け。金儲け優先でリスクをろくに伝えずにどんどん売り込み、病院もどんどん処方し、他社もそれに追随して同様のオピオイド系鎮痛薬を続々販売。依存症が大問題になってから国もようやく介入したものの、かえって闇市場化が進んで泥沼の状況が今も広がり続けている。

アメリカにおけるコロナワクチンの接種率は51%程度で頭打ちになっているが、こうした問題によって医療や製薬会社に対する強い不信感をもつ人が一定数いることは大きいと思う。

この案件の経緯からは、実際、製薬会社は人命より金儲けを優先したのだし、医療者は無知であれ承知の上であれ、薬害を被った患者に対しては何の責任も取らないことが身を以て示されている。

受けた医療によって被ったものは全て自己責任になる。それが現実。

 

主人公ベンは被害者であり加害者でもあり、母ホリーは断固とした独善的なまでに情深い愛情に突き動かされている。それぞれの存在は引き裂かれていて簡単に善悪を断じることはできない。

ベンはなんとか人生をもう一度立て直したい。けれど、ベンが損なってしまった人やものは取り返しがつかず、結局どこにも出口がない。

しかし、とにかくどうしても生き抜くのだ、絶対に息子を死なせない。母の執念じみた思いでベンは生還するけれど、もちろんハッピーエンドではない。何ひとつ解決はしていないし、当面解決する見込みもない。

見終わった後も複雑な感情をただ噛みしめるばかりだった。

薬物に限らず、依存症は本当に難しい。完全な治癒がないから、一生欲望と戦い続け、自制し続けないとならない。

私がもしなってしまったら、とても自信がない。心地良い方に簡単に流れて、破滅すると思う。

だからこそ、必要なことをきちんと知る賢さでできる限り自衛するしかない。

どういう医療を受けるかは完全に本人の自由だが、自分の体に何を入れるのかということをろくに考えず、権威を安易に鵜呑みにしてしまうことの恐ろしい帰結を厳しく伝える作品でもある。