続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ある船頭の話」「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」

 ポスター画像

2019年/監督・脚本・編集:オダギリジョー/137分

 

オダギリジョーの初監督作品。淡々とした作品なのかなと思っていたが、予想と違ってすごく挑戦的な作品だった。センスが素晴らしく、映画として調和していて、めまいのような濃密さがある。かなり好きな作品だった。

とにかく隅々まで映像が素晴らしいので、映画館で見たかった。クリストファー・ドイルの撮影は、山水画のようでいて、じっとりとウェットなアジアの感覚がある。久々に彼の撮影を堪能した。やはり素晴らしい撮影監督。

音楽はごく少なく、基本は環境音のみであり、それがとても心地良い。潜り込むようなトリップ感がある。

ここぞというときに流れる音楽は、どこの国の言語か分からない不思議な言葉と旋律を持つ。悲しみのような浮遊感のようなつかみどころのない、同時に宗教音楽のような厳かさがある。

じっくりとした間を持つ編集。演出も脚本も極力説明をしない。たった1カットで多くのことが分かるように作っている。時間の経過で自ずと理解させる。

シュールで非現実的な要素が優れたホラー映画のように違和感なく日常と隣り合わせにふと侵食してくるからぞっとする。のどかな日常と、時折差し挟まれる血なまぐさい悪夢が徐々に近接し、追い詰められ高まり、血まみれのラストに繋がっていく流れが見事。

 

それでいて、気取りなく生き生きとした、いかにも素朴な民草たちのさまは、黒澤映画を思わせる。永瀬正敏演じる仁平さんのモノローグのシーンは、温かく心に沁み入り、涙が出た。

トイチは、まるでうちのじいちゃんだった。懐かしくてせつなかった。

便利と引き換えに多くの豊かな、心あるものたちが失われてしまったということ。ここに描かれているのは精神の自由や、豊かな時間を何者かに明け渡してしまう過程だ。

今、それが極まった後の寒々とした世界に我々が生きているということもひしひしと感じた。

そしていつの世も、もの言わぬ者が強者に踏み付けられる人間の世界。もの言わぬ人が何も考えていない訳ではない、むしろ深くいろいろなものを抱え込んで生きている。表向きの優しさと内面の地獄。人間を侮ってはいけない。

 

これを時代劇でやったのもすごいし、作家性を前面に出したこういう日本映画を久しぶりに堪能したという気持ち。ひとつも無難にやろうとしてない、志が高い。

豪華なキャスティングは、多くが彼と共演してきた人たち。きっと技術スタッフもそうなんだろう。オダギリジョーが俳優をしてきたのは、国内外の映画製作の現場で経験を積むのはもちろん、いろいろな映画人と出会うためだったのではと思うくらい。 

 

きっとそうに違いないと思ってしまうのは、最近NHKのドラマ10の枠で「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」というぶっ飛んだコメディを見たからだ。こんなおかしなドラマ待ってました!」 オダギリジョー、“犬役”のNHKドラマ大反響で「殴られるような事にはならず、安心しました(苦笑)」(1/2  ページ) - ねとらぼ

2021年/脚本、演出、出演:オダギリジョー/全3回(2021年9月17日、24日、10月1日)各話45分

 

180度テイストが違う。ひたすらシュールで馬鹿げた、でもめっちゃ楽しんでこだわって作った超豪華な自主映画みたいなコメディ作品。

この作品も、びっくりするようなオールスターキャストだった。彼が監督でなければこれだけの人たちを集結させられないだろうと思う。

私はこちらもすごく好きだった。敵との全面対決、からのまさかのラップバトル、からのまさかのダンスバトル、全員で群舞という流れのアホらしさ、呆気にとられて最高であった。最初から最後までクスクス笑いが止まらず。

あまりに馬鹿げているから、全くピンとこない人もいるとは思う。でも、方向性は違えど、やっぱりひとつも無難にやろうとしてないし、清々しいほど思い切り良く冒険していて、しかしただやみくもじゃなくて一度見ただけでは分からないところまできっちり作り込んでいる。

 

たまたま2作立て続けに見て、俳優としてはあまり興味がなかっただけに、オダギリジョーの才能の豊かさと精神の自由さにびっくりさせられた。悔しく思う作り手は多いだろう。 

次作がとても楽しみな監督がまた一人増えて嬉しい。