続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」

La Femme à la fenêtre - Film 2021 | Cinéhorizons

2021年アメリカ/原題:The Woman in the Window/監督:ジョー・ライト/101分/2021年5月14日〜Netflix配信

 

本作は、イギリス人のジョー・ライト監督がアメリカで撮った作品だけど、このフランス版のキービジュアルが一番ヒッチコック味が出ていて好みだった。

この作品自体が、ヒッチコックへの素晴らしいオマージュだからだ。

 

何の事前情報もなく油断して見たけれど、思いがけないくらい好きな映画だった。

特筆すべきはなんといっても圧倒的な映像美だと思う。D.P.はジョー・ライト監督では「チャーチル」に続いてのブリュノー・デルボネル。

本作の撮影がとても好みだった。ヴィットリオ・ストラーロのようなドラマチックで深みのあるカラーコントロールが実に美しいのだけど、ストラーロとはまた違って、なんというか、もっと端正で硬質で内向的で。今はデジタルの技術が進歩しているので暗闇がつぶれることもなく、闇まで含めて隅々まで絵のように美しい。美しくないカットが一つもないのだった。意図を効果的に伝える凝ったアイデアによる表現にもいちいち感服しつつ、ため息をつきながら見入っていた。

最初から最後まで、完璧にこだわり抜いていて、本当にすごい。

 

 

音楽的なうねりと緩急、独創的なインサートを伴う独特のインパクトの強い編集にもすっかり引き込まれた。

エイミー・アダムズ演じる主人公のアナは、精神を病んで薬漬けの日々を送る、広場恐怖症で家から一歩も外に出られない女性。ずっと家にこもっていて、空気が淀んでいるような倦怠感や、どこからが現実でどこからが妄想か眠りの世界か分からなくなるような精神のあやうい感覚が巧みな編集でもって表現されていた。

泥のような重苦しい混濁に満ちていながら、どこかサイケデリックなムードもあるのがなんとも魅力的だった。

 

冒頭で「裏窓」の一シーンが登場し、本作が明確なヒッチコックへのオマージュであることが提示される。ずっとどことなく不穏で、登場人物皆が疑わしくて、ぴんと張り詰めた糸が最後まで切れぬままクライマックスへ高まっていくようなヒッチコックのサスペンスの感覚の再現は見事で、終始ひりひりしっぱなしでヘトヘトになった。同時に現代的なモダンな感覚もいい塩梅で加味されていたと思う。まさに現代版ヒッチコック。師匠が生きていたら、どう見るであろう。

クライマックスの屋上での殺し合いのシーンは、もうなんの遠慮もなくストレートにちょっと笑っちゃうほどヒッチコック味が全開であった。

そこから一転して、嵐が去った後の静けさのような最後のシークエンスが心に残す余韻もまた良かったなあ。それも含めてのヒッチコックへのオマージュだと思った。ラストカットの完璧な美しさ・・・。

 

この作品を下支えする、エイミー・アダムズ、ジュリアン・ムーアゲイリー・オールドマンは予想に違わぬ安定感だった。

ちょっと話が逸れるけれど、Netflixって本当に玉石混淆で、外れの作品もまあまあ多い。たまに激しく外れた映画を見ながら、あーだこーだ喋るのも面白いものだけれど、やっぱり「時間返してくれー」と言いたくなるような作品は出来るだけ避けたい。

サブスク中心で鑑賞する生活に入ってからは、自分の自由になる時間に対して作品の選択肢が多すぎるのが贅沢な悩みになっていて、まずもって何を見るか決めるのが結構難しかったりする。

とはいえ、事前の予備知識や誰かの評価もあまり耳に入れたくない。

 

本作に関しては、監督はもとよりメインを演じた個人的にかなり好きな卓越した俳優たちが揃いも揃ってオファーを受けたからには、きっと良いに違いないと思って見た。

3人というのがポイントだったと思う。1人だけでは、もうひとつ確信を持てない。

この俳優が受けたのだから一定のクオリティーは担保されてるであろうと思って見たら「うそーん」とびっくりすることはしばしばある。(ちなみに、Netflixで本作とほぼ同時に配信されているアマンダ・セイフライドのホラーはうそーんである)

 

でも、思い切った冒険ができてしまうことも含めて、自由度が高いのがNetflixの強みだし、何より、スポンサーに支配されることがないために、権力によって隠蔽されがちな重要な真実を語ったドキュメンタリーが世界100カ国以上に気前良く配信されていることは、このプラットフォームの代え難い大きな価値だと思う。

とはいえ、正義や倫理に基づいている訳ではないということはよくよく承知しておく必要がある。タブーなく何でもあり、というだけで。

 

最近、我が家の食生活を一変させたNetflix配信の驚くべきドキュメンタリーのことを、忘れぬうちにここに書き留めておきたいのだが、重要な点があまりに多すぎてまとめる自信も時間もないなあ〜と思っている。