続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「TIME」

Time (2020) – Gateway Film Center

2020年アメリカ/原題:TIME/監督:ギャレッド・ブラッドリー/81分

 

BTMのムーブメントの追い風もあってオスカーにノミネートされ、注目されているドキュメンタリー作品。アマゾンプライムにて視聴。

若く向こう見ずな黒人カップルが銀行強盗をして逮捕され、妻(運転手役)は懲役3年半だったが、夫には執行猶予も仮釈放もなしの懲役60年という黒人ゆえの重すぎる判決が下される。

妻のフォックス・リッチは、双子を含む6人の子供を育てながら、夫を刑務所から救い出すべく奮闘する。

刑務所の中にいる夫と家族の時間を共有するために、フォックスは1000時間に及ぶプライベート映像を日常的にホームビデオで撮り続けており、その膨大な量の映像がギャレッド・ブラッドリーの手によって80分の作品にまとめ上げられた。(素材を見る労力・・・!)

 

本作は、黒人の置かれている理不尽な状況を見せることを通して黒人差別の問題を社会に問題提起するというストレートフォワードなドキュメンタリーではない。

「一人の強く賢く愛情深い女性の奮闘を中心としたある家族の20年間の記録」であり、社会的な要素は、アメリカに生きる黒人にとって当然の前提としての背景という扱いになっている。

モノクロの映像、物静かな音楽、散文的な編集によって詩的な印象を強く感じさせる、ごくパーソナルな美しい作品である。

 

このような作風になったのは、過去素材がホームビデオ映像だったこと、そしてフォックス・リッチという女性の魅力的な生きざまに依るところが大きいのだろうと思う。

かつて彼女は、夫と共にヒップホップのお店を始めたものの、資金繰りがうまく行かなくて銀行強盗をしようと思い付き、実行に移してしまう。彼女と当時の夫は言うなれば「パルプフィクション」のアマンダ・プラマーティム・ロスみたいなもので、事情はあれど、あまりに短絡的で衝動的な若いカップル。

しかしそんな彼女が、その後自分の人生を見事に立て直し、溌剌と顔を上げて生きていく、その明るいパワーが本当にすごく、引き込まれるのだ。監督も、そこに一番心を動かされたんだろうと思う。

フォックスは、車のビジネスを成功させて経済を安定させ、6人もの子供を育て上げ、刑務所にいる夫を明るく支え続け、継続的に夫を釈放するための活動を続けながら、家族のみならず社会に向けて当事者として理不尽を訴え、素晴らしく気合いのこもった堂々たるスピーチで、同胞を励まし鼓舞することまでやってのける。

 

フォックスは、もちろんめちゃくちゃ怒ってもいるし、落ち込みもする。でもどうあっても彼女にはいつでも明るい確かさのようなものがある。

彼女は愛する男と共に作った家族を、何としても諦めない。「私と家族は幸せに生きていくのだ」という決意のようなもの。それが彼女に強い生命力と安定感を与えている。

彼女がケアをする夫と6人の男の子たちは、母ちゃんにとても頭が上がらないことだろう。いやはや、「母は強し」という言葉以外思いつかないような人だった。

FlatRob: 18 years and still walking in faith that one day our family would  be restored...But God! - YouTube

 

それにしても、夫と再会した瞬間の躊躇ない熱烈な歓迎ぶりもすごいし、これだけ長い期間離れ離れでいて、どうしてこんなにも揺るぎなく愛し続けることができるんだろうという、その愛の熱量にほとほと驚かされたのだけど、ふといや待てよ、収監されてから子供が増えている!?ということに思い当たる。

それで、映画では全く触れられていなかったけど、先進国をはじめとした世界の国々には「夫婦面会」という制度があることを知った。

定期的に配偶者、パートナーと個室で監視なく過ごすことができる、性行為もオッケーという制度らしく、そういうことかと腑に落ちた。(アメリカでは全ての州で認められているわけではなく、また近年は南部を中心に廃止の傾向にある。)

この制度が、受刑者とそのパートナーにとってはいかに貴重なものか、そしてこの制度が釈放後の社会復帰にかなり大きく寄与するだろうことは想像に難くない。

 

国によって内容があまりに異なる夫婦面会制度には、その国の「民度」が如実にあらわれている。

コロナ禍の中国で、武漢の作家方方氏が「その国家が文明的かどうかを計るたった一つの尺度は、弱者に対する態度だ」と語ったように。

ちなみに日本はもちろん、認められていない。以上。

そして今、入管法を改悪する法案が強行採決されようとしている。

 

この国の弱者に対する態度の厳しさと非寛容さは、怖ろしいほど。

フォックスの夫のように、家族やコミュニティーの中に笑顔で戻っていける元受刑者など、この国では皆無に近いだろう。

一見便利で清潔で親切で。でもひとつ間違うと非人間的な扱いが公然とまかり通っている国に私たちは住んでいる。つくづく怖ろしいことだと思う。