続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「デヴィッド・リンチ:アートライフ」

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2016年アメリカ・デンマーク合作/原題:David Lynch : The art life/監督:ジョン・グエン他/88分

 

 誰もに勧められる作品ではないけれど、個人的には非常に面白く、好ましい作品だった。

デヴィッド・リンチの生きるリアリティーが映像から感じられて、どうして彼が彼たり得たのかについて、すごく腑に落ちた。

単に思わせぶりなアートっぽさ、お洒落感でこういう演出になっている訳ではなくて、彼の感性と呼吸にじっくりと寄り添い、呼応している。

 

彼の訥々とした、しかしきっぱりとした過去を語る語り口は率直で魅力的で、しかも記憶のビジュアライズの力がすごく、彼の映画を見ている時と全く同じ気分になるのがとても面白かった。これって、「ブルー・ベルベット」そのままじゃないか。あれって彼にとっては単なる現実だったのか、とか。

 

リンチの創作意欲の源は記憶をありありと再現すること。できるだけ正確に、その不条理も含めて形にして世界に差し出したい。そういうことなんだとよく理解できた。

彼の作品に出てくる禍々しいもの、気持ちの悪いもの、狂気。彼はそれらを偏愛して、拡大しているのではなくて、世界にたしかに含まれているのに人々が目を逸らし、ないものとして扱おうとしている「あるもの」を、目を逸らさずありのままを目を見開いて見つめようとしているのだ。だってそれは、確かに「ある」のだから。

 

だから彼はあのような題材を扱いながらも、とても素朴で純粋な佇まいをしている。子供のような素直さと誠実でもって創作をしているから。

 

いろいろと世界と折り合いをつけることは難しかろうと思う。それでも、純粋な芸術家としての人生を貫いて、悠々と子供の泥遊びのように淡々とアートを作り続ける、なんとも格好のいい老人であるデヴィッド・リンチがいる世界は、いない世界よりもずっと豊かで深みがある。

自分にとっていてくれて嬉しい人のひとり。