続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「外科医は挑む ー革新と情熱の医療最前線ー」

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2020年イギリス/原題:The surgeon's cut/製作:BBC/1シーズン4話 各話約50分/2020年11月18日〜Netflix配信

BBC製作、世界屈指の外科の名医を紹介したドキュメンタリー。

美しく撮影され、彼らの仕事を紹介するだけではなく、それぞれの人生や思想も丁寧に伝えている。

手術をはじめとした医療現場の撮影もただ驚き興味深く、日本でもこういうテーマのドキュメンタリーはあるけれど、さすがのソツのないクオリティーの高い作りに感心。

 

被写体に選ばれた4人のドクター、ぞれぞれに魅力的だった。

独創的な手術法を発明して何百人の赤ちゃんを救ってきたギリシャ人胎児専門医も、全米随一の技術を誇るフェミニストの生体肝移植医もすごかったが、人生波瀾万丈っぷりでは第二話のメキシコ人脳外科医が随一。

 

メキシコ・メヒカリで極貧の9人兄弟の8番目として生まれ、10代の終わりに国境警備隊の目を盗んで柵を飛び越えて手ぶらでアメリカに密入国する。

日雇いの綿花摘みと駅の掃除夫として働きながら、差別と逆境をはねのけてひたすら勉学に励み、6年後にはハーバード大学に入学。 今では世界最高クラスの病院であらゆる脳腫瘍の手術をする脳外科医になっている。高低差がすごすぎる。

 

人物ドキュメンタリーを見ているとしばしば思うことだが、人間、分野によらず一つのことを極める域に達した人には、共通の価値観と世界観がみられることを感じる。この作品で4人の医師が口を揃えて言っていたのは、

「何度生まれ変わっても同じことをして生きていたい。人生の最後までこのことをやり続けていたい」

「自分の力などはなく、神の意思を体現する通路のような存在であるように感じている。自分に与えられた才能(gift)は、分け隔てなく社会のあらゆる人に自分の持てるものを役立てるのが当たり前」

ということ。

 

英語では才能のことをgiftと言う。極めた人ほど、本当にgiftでしかあり得ないという所を通過せざるを得ないのだということがよく描かれている。

またその言葉ゆえ、それがたまたま与えられたものであり、自分はそれを持ててラッキーだったし、それを多くの人のために役立てるのは当然という思想に繋がってもいくと思う。

だから、言葉がどんな思想に基づいているかはとても重要で影響の大きいこと。

俺の才能は俺の努力で勝ち得た俺だけのものという考えが世界に蔓延しているけれど、それは浅はかで恥ずかしい間違った考えだということを、発するたびに言葉が辛抱強く教え続ける。

政治家は誤解を促進するような言葉の言い換えをするけれども、本当に罪深いことだと思うし、言葉を穢す行為で、とても腹立たしく思う。

ある言葉がその事象を正確にあらわした言葉であるかどうかにはすごく注意深くあらねばならない、こだわらなくてはいけないと普段から思っている。

 

 

与えられたgiftを使って、限られた自分の人生で何をしていくのかを考えさせられる作品だった。

他の人には助けられない、困難な状態にある人を助けることができる術を持っている自分は幸せ者だと彼らは言う。

彼らのように突出していなくても、誰もが心から自分のやることに誇りを持ち、価値を感じられる人生でありたいと願うことが世界をよくしていくのだと思う。

そうでない人生なら、どんなに経済的に、世間的に成功していようが、虚しいのだと思う。