続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「希望の灯り」

Film » In den Gängen | Deutsche Filmbewertung und Medienbewertung FBW

2018年ドイツ/原題:In den Gangen/監督:トーマス・ステューバー/125分

 

ワンカットめからもう、ああこういう映画を待ってたよ、と思う。

カウリスマキ作品の一番好きだった頃の作品のニュアンスがある。澄んだ冷たい空気を吸い込むみたいに味わいつつ見た。

 

旧ドイツの田舎にぽつんとある、殺風景で巨大な倉庫のようなスーパーマーケット。物語はほとんどこの空間の中だけで進行していく。窓のないスーパーの中で朝から晩まで一日働けば、太陽を見ることもほとんどない。

ここは宇宙の果てみたいにさびしく、寒々しい。しかし実際的で確実な手触りがあり、完璧な調和がある。

 

けして表舞台には立たないタイプの人たちしか出てこない。たしかに何の華々しいこともない。大事件もなければ、勝利も、勇気も、成長もない。

こつこつと、あまり楽しいこともない、経済的に豊かでもない非カラフルな日々を店員たちは淡々と生きている。

その中にあるおかしみ、遠慮がちな思いやりの交流。貧しいかもしれないが、下品な人が一人も出てこない作品だ。

 

皆、自分なりに善くあろうと、幸せな人生にしたいと彼らなりにできることをやっている。それぞれが個別の悩みや苦しみを抱え、孤独や喜びを感じながら生きている。

コロナ禍でよく聞くようになった「エッセンシャルワーカー」という言葉。

この映画に出てくる人々も皆エッセンシャルワーカーで、彼らのような人々は、世界中に無数に存在する。どんな国でも、人間の営みがある限り、大勢の彼らのような人々がそれぞれの社会を支えている。

彼らはとてもたくさんいるのに、一人ひとりは目立たぬ存在だから、時にまるでいないみたいに扱われる。

寡黙に言われたことをやる人々だから、替えのきく歯車の一つのように思われている。

 

しかし、我々は誰もが道具や歯車ではなく人間で、全員が個別の人間の人生を生きている。

それは途方もなく重たいことだけれど、やはり美しく愛おしいことだと思う。

 

あたかも上等な人間と下等な人間がいるみたいに振舞っている人が世の中大勢いる。

誰もが生きている限り、華やかなことだけではなくって、誰もが延々と繰り返される日常の動作をやらずに生きることはできない。

経済がどうでも、有名でも無名でも、誰もが概ね日常の地味な繰り返しを繰り返している。

人間の人生の振れ幅なぞ、その程度のものなのだとも言える。

 

どこまでできているかは分からぬが、少なくとも自分は、全ての人にできる限り同じ敬意を払いたいと思っているし、そうあるべきだと思っている。

けれど「自分にはより多くの敬意を払え」と要求してくる下品な人は世の中に割といて、そういう人にはむしろ敬意は払いたくねえな、と思う。