続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「工作 黒金星(ブラックヴィーナス)と呼ばれた男」

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2018年韓国/原題:The Spy Gone North/ユン・ジョンビン監督/137分

 

滑り込みセーフでやっとこ見れた。と、思ったが、なんと、体調が悪すぎてちゃんと味わって見る事が出来なかった。レイトショーもよくなかったか・・・なんてこった。

 

どんなに疲れていても、眠くっても、映画さえ面白ければすぐぎゅっと集中して見れてしまうという自信だけはあったので、わしも年をとったのう〜!と切ないかぎり。もう全部のジャンルで無理がきかないんだなあ。

 

韓国の政治史・軍事史を全く理解していないと、ちょっと話についていくのが大変な部分がある作品ではある。

しかし、基本となるクオリティーがなあ!近年の韓国映画の質の高さはどれも素晴らしいけれど、とりわけ社会派の映画作品には堂々たる重厚な風格がある。緻密で、撮影も素晴らしかった。

 

そして、韓国におけるスパイって、やはりリアルな存在なんだなと。もし日本映画でスパイを描いたら、もっと嘘っぽく、おもしろくなっちゃうと思う。

この作品、ファン・ジョンミンが上手かったことが何より大きいとは思うが、韓国映画のスパイのひりひりするような真実味はすごいなといつも思う。

「コクソン」であのすごい祈祷師を演じていたファン・ジョンミンだけに、まあ間違いないだろうなと思っていたが、作品を見た後はむしろ北朝鮮の要人リ所長を演じたイ・ソンミンが強い印象を残した。

 

リ所長に限らず、全編を通して北朝鮮という特殊な国の微妙なディテールが見事に再現されていたと思う。

街中の風景も、人のたたずまいも、ちょっとした食堂や列車などの細部も実に丁寧に描き込まれていた。

テレビで独特の仰々しい調子でニュースを読み上げる例のおばさんの印象がとにかく強すぎるんだけれど、北朝鮮人の独特すぎるムードの再現もさすがだった。

 

映画の舞台となった1990年代に、北朝鮮は大量の餓死者を出す程庶民は貧しかったわけだけれど、リヤカーで雑に死体が運ばれて、ゴミ捨て場のような山になった捨て場にどざどさと死人が積み上げられていく、それにたかる真っ黒な顔の人々の描写には戦慄した。

 

しかし、近年の韓国映画の自国の黒歴史を描いた一連の作品の躊躇のなさは、ほんとにすごい。

この作品も脚色はあるが、史実がベースになっているゆえの純粋な驚きがある。

今は文政権なのでこうした作品がどんどん作られていて、外側から見ればこれだけ表現の自由が保証されている時点で素晴らしいと思う。

しかし政治的には彼も現状盤石ではないようだし、韓国もいつまたどうなるかは誰にも分からない。

 

世界でもっとも強大な権力を持つのが韓国の大統領職と言われているけれど、映画で描かれているように、トップによって人の運命が大きく翻弄されるさま、何が善で何が悪かが一夜にして転換してしまう可能性をはらんだ韓国社会のありようはつくづくすさまじい。

 

社会派映画であっても、きっちりエンターテインメントとして昇華しているのが韓国映画。このような映画たちが楽しんで多くの人に見られながら、自らの国を俯瞰し進むべき賢明な道を示すための力のひとつになっていることは素晴らしいと思う。

日本映画がいろんな面で周回遅れくらいのことになっているのがとても残念。がんばってほしい。