続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「US」

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2019年アメリカ/原題:US/ジョーダン・ピール監督/116分/日本公開2019年9月6日〜

 

ホラー映画が苦手だけれど、ジョーダン・ピールだけは別。

上映館が少なめだけど、高速に乗って港北まで行ってうきうきと見てきた。

 

個人的には「ゲット・アウト」の面白さにはちょっと及ばないかなあ〜とは思った。

ゲット・アウト」を見た後は、わくわくしすぎてちょっとわなわなするような感じがあったけど、この作品はそこまでの印象はなく。

 

表面的なエンタメ感とは違って、さまざまな意味深なメタファーが込められているのだけど、頭で考えたことが勝ちすぎているためにいささか分かりにくくもなっているという印象。

 

しかしやはりジョーダン・ピールの優れてオリジナルな独特のイマジネーションとユーモアがないまぜになった感覚は他の映画ではなかなか味わえない。彼のアイデアがいつも楽しみ。

 

いつでも彼の表現のコアとなるのは、アメリカ白人社会の持つ欺瞞性や社会のヒエラルキーに対する、黒人としての深い怨嗟の感覚と思う。今作もやはりそのテーマが主軸となっていたと思う。

 

ドッペルゲンガーの恐怖は、普通に考えるとパラレルワールドの恐怖なんだけれど、ジョーダン・ピールが描く本当の自分と闇の自分の対比は、表裏ではなくて上下(地上と地下)であることがポイントで、これは「ウィアード・シティ」にも通じるモチーフ。パラレルではなくヒエラルキーである。

 

同じ条件を持ったものが、環境によって全然違った存在になってしまう。恵まれた存在が先天的に優れていると思い込んでいるものは、環境によっていかようにも左右されてしまう、ということをこの作品は描いている。

 

与えられた幸運や恵みを当たり前と思う無自覚さ。都合の悪いものは見て見ぬふりをして自分の幸せを享受しようとし続ける傲慢な者たちが、ないものとしている「あるいはそうであったかもしれない自分自身」に復讐される。

 

繰り返し出てくるエレミヤ記11章のモチーフも、観賞後にググってはじめてなるほどー、とちょっとは納得したけれど、でも他にもまだよう分からんという部分は多い。

 

タイトルのUSはもちろんUnited Statesにかかっているんだろうし、深読みしだしたらきりがないタイプの作品。

 

また、本作はエンターテインメント性の強かった前作と比べて、彼の妄想や夢といった脳内のビジョンを映像化したような作品になっている。

だから結構飛躍していたり、シュールだったり、難解だったりする。

強調したい部分、クロスオーバーして見せたい部分などが、意味があんまり分からないうえに長回しだったり何度も繰り返し出て来たりする。

映像の意図やつながりがよく分からず、置いてきぼりにされる感覚も。

 

それでも、単に怖がらせるだけではしょうもないという考えは終始一貫していて、急に脅してびっくりさせるような安易な手法は使いたくない。

「ほんとうに怖いとはどういうことなのか」を追求する姿勢に志の高さを感じる。

同時に、今作は結構笑わせようとしている箇所も多くて、まあ怖いし、バカっぽい笑いもあるし、悲しみやノスタルジーもあるという、多様な味わいの作品になっていると思う。

 

不穏な童謡のような冒頭の音楽、不気味で印象深かった。ラストで流れたのは、どっかで聞いたと思ったら、Charaの「私はかわいい人といわれたい」の(ほとんど)カバー。こちらも印象深かった。

 

でも何より、これからもし赤いつなぎを着た人を街中で見かけたら、いちいちビビると思う!

結局赤つなぎがこの作品の一番のインパクトだったりして・・・。