続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「ブラジル 消えゆく民主主義」

ふううー、政治のシーズンが続いていて、いささか食傷気味ではあるのだけど、でも今週の関心ごとはやはり政治的なことになっちゃうんだろうな。

とにもかくにも、太郎たちがんばれー!

 

昨夜はNetflixでブラジルのごりごりのドキュメンタリーを見る。

火曜日のたまむすびの「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが紹介していて、「えっブラジルってそんなことになってるの??」とかなり驚き、これは見なくっちゃと思った次第。

 

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2019年ブラジル/ペトラ・コスタ監督/113分/Netflix公開2019年6月19日〜

 

ブラジルオリンピックの時、「不正をした大統領が罷免されたので今回のオリンピックはホスト国のリーダーが不在となります」というような簡単なニュースの解説を聞いて、「へえ、悪い政治家がいたんだね」くらいに思っていたのだけど、その内実は驚くべきものだった。これまで何一つ知らなかった。

 

ブラジルの現大統領は、極右政治家のボルソナーロであることはさすがに知っていた。

ひょんなことからこの国の舵取りをすることになった人で、トランプと仲良しで、差別的だったり下品だったりする言動でたびたび物議を醸している、人格者とはほど遠い人物。

 

彼が大統領になったのは、世界中で見られる極右勢力の台頭のひとつのあらわれかと思っていたのだけど、この作品を見て彼は繰り上げ当選で大統領になった奇跡の棚ボタ大統領だったのか、と知る。

 

たった2期前は長い軍事独裁政権を脱して初めて労働者階級の大統領ルーラが生まれ、彼の素晴らしい政策で2000万人の貧困層ベーシックインカムが与えられ、ブラジルは建国史上未曾有の好景気に沸いていた。

たくさんの血を流して大勢の人々が戦い勝ち取った、待ちに待った民主主義の世の中だった。

それがたった10年あまりで終わりを告げてしまった。

 

既得権益を奪われた資本家や白人の世襲政治家といったかつての支配者層の陰謀によって、あたかも魔女狩りのような熱に浮かされた狂騒のうちに、やっとのことで築いた民主主義がもろく崩れ去って行くさまが、深い悲しみと共に詳細に描かれている。

 

作品を見ていると、ある種の人々は、自分の権力と金とプライドのためならほんとうに何だってやるのだ、と空恐ろしい気持ちになる。

彼らにとっては、自分以外の人がどれだけ死のうと飢えようと困ろうと、地球が壊されようと、それは「致し方のないこと」なのだ。

そして、誰しも一旦陰謀に巻き込まれてしまったら、どれだけ正当であろうとも、冷静で穏便な語りかけや対話は全く機能しなくなり、暴力的な場所に一気に放り込まれてしまう。

 

政治システムの制度設計というものは、人間の邪悪さと愚かしさを踏まえたうえで、これらが暴走した時にブレーキとなることを想定して作られなければならないといつも思うことだが改めて強く感じる。

 

性善説に基づいて設計されている日本の法律は、近年の恥を知らない人々にはたびたび機能しないという事態を呈している。今日も記録は捨てまくられている。

ブラジルもしかり。だって検事がその後判事になって同じ人が裁いちゃうのだもの。性善説を超えてもうめちゃくちゃだ。検事が気に入らない人は誰でも起訴して有罪に出来てしまうのだから。

 

だからこそ、韓国の文大統領やイギリスのキャメロン首相のように、自分がトップになった時に権力に酔うのではなく、自ら権力を制限するルールを作る人は立派だと思う。

 

 

もうひとつ見ていて怖かったのは、メディアのさま。

人々の正常な判断能力を奪い、盲目的な狂ったお祭り騒ぎの火に油を注いだのは、何においてもメディアだった。

 

もともと中流以上の既得権益層の不満に端を発したキャンペーンだった。それが、既得権益層をスポンサーとするメディアによって彼らにとって都合の良い、ゆがんだイメージが広げられていった。

悪人顔にデフォルメしたルーラやジウマの醜悪な似顔絵が描かれ、逆に盗聴までする検察官モロはヒーローキャラクターに模して描かれる。

紋切り型のコピーや根拠のない嘘も、連呼することで本当のようになっていく。

 

その結果、かつてルーラの施策で月に30ドルの支給を受けて暮らしを立て直し、一人前の職も得たはずの下層階級の一部にまでネガティブキャンペーンが飛び火したことと、緊縮財政による経済の悪化によって、ジウマの求心力は急速に低下していくことになった。

根強く労働党を支える支持者層も戦ったけれど、結果的に民主主義を守ることは叶わなかった。

 

遠い外側から見ていると、「なんて大衆とは愚かなんだろう。まったく自業自得ではないか」という思いに思わず駆られる。

 

しかし、今の日本は海外の人から見たらブラジルと大差ない。

与党の昨日の支持率は45%だそう。これだけ内向きできなくさい方向に進み、弱者を踏みつけ強者にこびへつらう格好悪いリーダーが率いる政権を、半数近い人が支持している。

自業自得と言われても仕方がない。

 

しかし同時に、メディアが言うことを正しいと思うのは間違った思い込みだとみんながはっきり認識する必要がある。

株式会社と一緒で、スポンサーのいるメディアにおいては、お金が儲かるかどうかが判断基準の最上位に来る。

メディア自体に倫理も善悪もない。スポンサーにとって都合の悪いものには触れず、都合の良いものが醸成されていく。

この身もふたもない現実をしっかり踏まえることがまず前提にならなくちゃ。

 

この作品を見るとよく分かるけれど、メディアは権力の暴走にむしろ大きく加担している。

 

与党の暴走を止められないのは野党がだらしがないから、とメディアは言う。

どの口が、という思い。