続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち」

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2019年アメリカ作品/原題:Knock down the house/レイチェル・リアーズ監督/86分/Netflix公開2019年5月1日〜

本作は昨年のアメリ中間選挙で旋風を起こした女性候補者たちの戦いを追ったドキュメンタリー。

監督のレイチェル・リアーズがクラウドファンディングで資金を集め、監督自らがプロデュース・撮影もつとめた。

 

今年のサンダンス映画祭の観客賞を受賞し、Netflixがドキュメンタリーとしては破格の10億円で配給権を買い取ったそう。

 

今、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスという人の放つ輝きに、多くの人が魅せられている。その彼女がいかにして国会議員になったかというドキュメンタリーと聞かされればもちろん興味深いわけで。

彼女がまだ一介のバーテンダーとして、NYの極狭アパートで優しい恋人と暮らしているところからカメラが入っていて、最後は恋人とホワイトハウスの前で肩を抱き合うところまでをしっかりと押さえている。始まりから、新しい始まりまでを。値打ちのある映像だと思う。

 

でも、作品には彼女を含む4人の女性候補もフィーチャーされていて、皆違うバックボーンと動機、異なるパーソナリティをもった人たちで、それぞれに魅力的だった。

共通するのは目の前のあまりの腐敗と悲惨な状況に「やむにやまれぬ」という思いで立ち上がった人たちであるということ。

 

私利私欲どころか、安寧に生きようとすれば選ばない、誰もやりたがらない困難で損な道を敢えて行く心ある女たちの誠実な姿に胸が熱くなった。

 

もちろん、オカシオ=コルテスのチャーミングさは素晴らしいかったけれど、もう一人深く心に残ったのは、Paula Jean Swearengin(画像右から二人目のめがねの女性)だった。

 

ポーラ・ジーンはウェストバージニアの坑夫の娘。

彼女の地元は、鉱山の町。盤石の地盤を誇る現議員ジョー・マンチンが鉱業関連企業との癒着、地元の自然はめちゃくちゃに壊され公害が蔓延、がん患者が続出。今では雇用もなく荒れ果てた故郷。彼女は何の後ろ盾もない普通の女性だが、自分が立ち上がるしかないと決意した。

 

彼女は愛想も良くなく、美辞麗句を言わないし、戦略的でない。一見、一番素人くさい。

しかし静かな怒りが原動力としてぐっとお腹の底にあって、自分のことは二の次で、やるべきことに集中しているはったりのない感じに私はとても好感をもった。

 

彼女は結果、勝てなかった。現職にダブルスコアの差をつけられての落選。

やはりメディア戦略に長けていたり、美人だったり、弁舌が鮮やかだったりするほうが有利なのかもしれないなあ・・という現実がつらい。

 

そして、一度頑強に作り込まれた権力構造に切り込むって、相当に大変なものなのだなあと映像を見ていて実感する。

彼女らが草の根的に一人ひとりと語らい支持を訴える中で「何も考えていないしよく知らないけど、これまで通りって決めてっから」みたいに言われて断られるケースがたびたび出てきて、うわーリアルだなあと思った。

日本にも、おなじような人はきっとたくさんいるのだろう。

 

でも!この作品がNetflixを通じて世界中に配信される影響の大きさは計り知れない。私みたいに彼女を応援したくなる人もたくさん出てくると思う。次の機会には、きっとウェストバージニアの人々に選ばれるはず、と願っている。

 

 

それにしても、マイケル・ムーアの「華氏119」を見ていた時も思ったけれど、オカシオ=コルテスさんという人を見ているとすごく気持ちが明るく前向きになる不思議。にこにこ笑顔で語りかけている時の笑顔の伝播力はそれはもうすごい。でもすごくまっすぐに怒っていても、まじめに話していてもやっぱり彼女は周囲を明るくするのだ。活気があって、希望と可能性を感じさせる。

 

よく勉強して明確なビジョンを持ち、強者にも臆せず言うべきことを堂々と言う。その弁舌の爽やかさはもちろん大事なのだけど、彼女が希有なのは、やはりその存在感。「この人を見ていたいな。この人の船に乗りたいな」と思わせる何があるのは強いのだ。それがないとだめということではなく、あると強い。

 

本作に出てきた4人の候補者は皆それぞれに素晴らしかったと思うけれど、唯一当選したのは彼女だった。

 

そして、彼女しかり、マララ父しかり、こうして臆せず生き生きと羽ばたく女性の蔭には、素晴らしい父親やパートナーの存在があるのだなあと思う。

けしてふさがず、「こうあるべき」を押し付けず、どんな女の子にものびのびと好きなように生きる権利があり、彼女らの可能性をことほぐ。

静かに彼女の思いに耳を傾ける、涙もろい恋人の存在もとっても微笑ましかった。

 

ラストシーンのエピソードは秀逸。彼女の亡き父と今の恋人というふたりの優しい男性が彼女を支え、羽ばたかせたことがしみじみ伝わってきて、素晴らしい終わり方だったと思う。

冒頭のお化粧シーンも印象深かったし、終始女性監督ならではの目線が生かされて、女性の自然な共感を呼ぶ作品になっていると思う。

良くできたドキュメンタリー、おすすめです。