続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「運命は踊る」

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2017年イスラエル他合作/原題:Foxtrot/サミュエル・マオズ監督/113分

端正かつ緻密な映画である。

映像表現に大変工夫を凝らしており、どのビジュアルからも明確な意図を感じる。言葉ではなく、画で語ろうとしていることがありありとあって、あまりの凝りように始めは気が散るというか、いささかうるさく感じられてしまうほどだったのだけれど、

 

物語に入り込む中で、画から全ての情報や感情を受け取るというモードに自分がすんなりと入り込むほどに、濃密なんだけれど非常に心地良い体験になっていった。

見終わった後には、この映画がとても好きだと感じた。

 

メリハリを好む監督で、構成によってムードが一変する。

一幕のモダンでお金がかかっているけれどミニマムで、神経症的なシンメトリーさがあり、隙がなく同時に安らぎもない無機質な冷たい世界観な中での唐突で抑圧された悲しみと嘆き。シュールなほどにシステマチックにものごとが進むことへの怒り。

 

二幕の冒頭では一転、悠然とらくだが検問を横切って歩いて行くシーンに驚かされ、続いての銃を相手に踊る、ヨナタンの柔らかいどこか官能的なダンスにどきりとさせられる。

戦場の殺風景で乾いた、どこか現実味を欠いた美しさ。理不尽な現実への言葉にならない複雑な思い、ちょっと滑稽であっけらかんとしたユーモアや人間的な感情の吐露。

日中の退屈さと夜の暗闇の恐ろしさの対比。

恐怖と不安と衝動に支配された状況下ではモラルなど機能しないということ。

 

三幕は、無防備でエモーショナル。悲しみや怒りを含んだやりきれない感情を素直に交わしあう親しみと切なさ。

 

映像表現に対するアイデアが非常に豊富で、しかも的を得ており、各々が確かな効果を生んでいるのがすごい。俯瞰の画がちょっと多すぎるのかな、とは思ったけれど。

 

多角的に五感と想像力を刺激されながら見る、いかにも映画的な体験がずっしりとした満足感を与えてくれた。

こういう映画を完成度の高い映画、というのだろう。

 

そして何より大事なこと。

色々な戦争にまつわる作品を見てきたけれど、この作品ほど戦場のただ中にいる兵士の心理、その不安や衝動や無感情やおかしみといった心の動きがありありと手に取るように感じられた作品はなかった。

また、戦争というものが人々の暮らしを日常レベルでいかに破壊するものかや、国家の名の下にめちゃくちゃなことが粛々とまかり通る理不尽さのリアリティーも際立っていた。

 

本当に、うんざりとするような思いで、戦争はやったらいけないもんなんだとしみじみ思った。こう、言葉に書いてしまうとなんて陳腐なんだろうと思う。われながらどうにかならんもんかと思うほどだ。

 

何ひとつ美化することなく、しかしどこまでも映像は美しく示唆に満ちていて、極限状態に置かれた人間たちの姿を端的に描き出していることに成功しているゆえに、結果として優れた戦争映画になっているのだと思う。

作り手はただそこにある真実を浮かび上がらせたかっただけ、なのだろうけど。