続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「バイス」

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2018年アメリカ作品/原題:Vice/アダム・マッケイ監督/132分/日本公開2019年4月5日〜

見ているとムカムカするような人々が、ムカムカすることを言ったりしたりする映画だからこそ、終始文法破りの皮肉たっぷりのユーモアで描かれている。

堂々と、グサグサと、権力の横暴を暴き立てていく、実にアメリカらしい作品だ。

 

内田先生がアメリカのカウンターカルチャーについて、端的にその本質を述べていたけれど、この作品が担っているのもまさにこの通りで。

 

つまり、アメリカという国は、国内にそのつどの政権に抗う「反米勢力」を抱えている。ホワイトハウスの権力的な政治に対する異議申し立て、ウォール街の強欲資本主義に対する怒りを、最も果敢にかつカラフルに表明しているのは、アメリカ人自身です。

この人たちがアメリカにおけるカウンターカルチャーの担い手であり、僕たちは彼らになら共感することができた。

僕たちがアメリカ政府に怒っている以上に激しくアメリカ政府に怒っているアメリカ人がいる。まさにそれゆえに僕たちはアメリカの知性と倫理性に最終的には信頼感を抱くことができた。

反権力・反体制の分厚い文化を持っていること、これがアメリカの最大の強みだと僕は思います。

比較敗戦論のために - 内田樹の研究室より引用)

 

さまざまな抑圧があり、謀略や無茶がまかり通っていて、それでも言論の自由がこれほどまでに保証されていることがこの国の命綱になっている。

 

もとより、この作品はキャストたちのさすがの安定感が重しになって、気を逸らされることなく、エンターテインメントとして楽しめるのは、見る前から分かってはいたけどさすが。

 

クリスチャン・ベールはさもありなん。個人的なお気に入りはやっぱりサム・ロックウェルジョージ・W・ブッシュ!出てくるたびに吹き出してしまった。上手いなあー。

パウエル国務長官や、台詞のなかった(つまり顔マネだけだった)ライス報道官も、映るたび笑えた。

 

エイミー・アダムススティーヴ・カレルは似せる方向ではなかったけれど、その人の本質をとてもつかんでいるゆえの説得力が見事だったなあ。

アグレッシブで前に出たい能力の高い女性が、男尊女卑の社会ゆえ夫を使って自己実現しようとする賢く怖いチェイニーの妻、リン。

モラルなんてくそくらえの不良で肉食系で、彼にとっては人生は派手なギャンブルみたいで、ある種存分にエンジョイしているアグレッシブなラムズフェルド

 

分かりやすい勧善懲悪でなく、それぞれが人間味も愛嬌もあるキャラクターになっているからこそ、一層もやもやさせられるし、悪の凡庸さや滑稽さについて深く考えさせられた。

分かりやすい勧善懲悪は、観客が善の存在に自分を寄せて溜飲を下すだけなので、単なるガス抜きにしかならない。それではむしろ逆効果なのだ。

 

100%の悪人も善人もいない。人は何に押し流されてどう変わって行くのか。

ワイオミングの釣り好きの劣等生が、いかにして選挙も経ず、国の事実上の最高権力者となったのか。いかにして彼が巨大な戦争を起こすことを決定づけ、遠く離れた国の無関係な人々が何十万人も殺されることになったのか。滑稽であればあるほど、恐ろしい。

 

隅から隅まで、日本では決して作り得ない作品。

それが、映画作品として云々を超えてこの作品を見て感じた何と言っても一番大きなことだった。

たった30年前の話で、100人単位で関係者を再現してみせ、ここに登場する人々のほとんどが現在進行形の人生を生きているのだから。

 

 

ちなみに、世界一危険なコメディアンサシャ・バロン・コーエンが、イスラエルの軍人、エラン・モラドに特殊メイクで変装して、かなり奇妙なイスラエル訛りの喋りでディック・チェイニー本人にインタビューをした映像、昨晩見て涙を流して爆笑!!ファーンタスティック、じゃねーよ!

映画を見た後だけに非常に味わい深いです。

 

 

共和党議員はイスラエル人と聞くと味方と思って油断する。チェイニーは、こんな濃ゆすぎるキャラクターのコーエンにちっとも気付かず、(どうしてここまでうさんくさいのに気付かないんだろう、笑)おだてられてゴキゲン。

彼が戦争時に拷問として推奨した、水責めに使うポリタンクになんと笑顔でサインまでしてしまい、そのポリタンクはのちにネットオークションで売りさばかれることに。

しかし、ここまで徹底的に権力を嗤う姿勢には痛快を通り越して圧倒されてしまうほど。命を賭けてコメディをやっている。