続・みずうみ

映画のことを中心に、小さく平凡な毎日の中で自分が感じた色んなことを、湖のような落ち着いた心持ちで考えていきたいと思います

「アリー スター誕生」役者編

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2018年アメリカ作品/原題:A Star Is Born/ブラッドリー・クーパー監督/136分/日本公開2018年12月21日〜

 

「スター誕生」は、既に3回もリメイクされてきた、ある種使い古されたモチーフである。当然お話の筋書きも、観客は前もって了解している。

にも関わらず、素晴らしい歌声の力を軸に、どうにもならないやるせなさと人を恋する気持ちに心が揺さぶられる堂々とした作品に仕上がっていた。

悲しみを伴うカタルシスと共に幕が降ろされるとしみじみとした余韻が残り、そそくさと席を立つ観客はいなかった。立ち上がるまでに時間がかかるのは、素晴らしい作品の証。

 

レディ・ガガの彼女らしさを自然に、のびのびと表現したアリーは、まっすぐな人柄が全面に出ていて好ましかった。何より圧倒的に歌が上手いことと彼女の作った曲が素晴らしいことが、作品の迫力の核になっている。

彼女が歌声を発した瞬間に彼女の世界に一瞬で連れ去られてしまう。エディット・ピアフみたいに、アレサ・フランクリンみたいに、人生そのものを歌い上げるような説得力のある声だ。

そういう声を持ち合わせている人は、それほど多くはないと思う。

 

そしてそれは、レディ・ガガ自身がスムースで幸福というよりは、苦しみや痛みの多い、ままならない人生を背負っていることを示唆している。確かなプレゼンスの上にその人の深い悲しみが加わって、だからこそ問答無用に人の胸を打つ、特別なものになる。

残酷で身勝手なことだけれど、そういう世界ってやはりあると思うのだ。

 

そもそもこの作品は、女優自身が自分の生き様をそのまま役にぶつけ、歌手の魂をかけて歌い上げ、演じ上げるというスタンスを要求する物語。この作品に説得力を与える上で、それは何よりも不可欠な要素と言えると思う。

 

これまでに演じたジュディ・ガーランドバーブラ・ストライサンドも、自身が特別な歌い手であり、そして苦しみの多い人生を送った(バーブラは存命)人たちだった、と思い出す。

 

 

しかし、私がもっとも心に残ったのは、ブラッドリー・クーパーが演じたジャックだった。彼はこれまでもハンサムなナイスガイを演じて来たけれど、今作のチャーミングさはずば抜けていると思う。

赤ら顔でひげ面で、だらしない格好をした飲んだくれだというのに、たまらなく格好いい。関わったら面倒なことになることが目に見えていても、誰しも放っておけない魅力。

 

一般に、ロックミュージシャンってすごく女にもてるけれども、私はミュージシャンという人種が抗いがたく持つ魅力の本質が、初めて腑に落ちたように思う。自分自身は縁のない人生で、負け惜しみのようだがそれはそれで良かったといいますか(苦笑)、映画でぽーっとなってるだけで十分だな、まともに付き合うのはいささか手にあまるだろうな、と思う。

 

音楽を奏でることを生業とする人は、誰よりもピュアでオープンマインドで繊細な優しさを持つ。そしてそういう生き方だからこそ、忍耐やプラクティカルな努力や経済や損得といった社会生活を営むための素養になじまない。

ミュージシャンとしての生き方を全うすればするほど、社会人としての生き方が両立しがたいものになっていく。本質的に「どっちもは無理」なのだということが、しみじみとジャックを見ていると伝わった。

 

それほどブラッドリー・クーパーはミュージシャンそのものに見えたし、演奏している姿が自然なのはもちろん、普段の何気ない仕草全てにすごくミュージシャンとしてのたたずまいが感じられて、役者として見事と思うばかりだった。

レディ・ガガの人生をまるごと投影したような演技と、ブラッドリーの高い技術、本作に命がけで向き合う姿勢が拮抗していることが、作品を得難い特別なものにしていると感じる。

 

 

 

ブラッドリーが映画の宣伝で来日した時の映像を見たら、普通のナイスガイなアメリカ人で、なんかちょっともっさりさえしている。この落差なー!

役者ってすごいものだな。そして今作では彼は監督でもある!

ああ、ジャクソン・メインは、どうしようもなくチャーミングな男だった。

 

主演の二人の感想で長くなったので、その他の要素やテーマについては別立てで。